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東京高等裁判所 昭和62年(ラ)108号 決定

抗告人 甲野太郎

右代理人弁護士 大久保賢一

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。本件免責を許可する。」との決定を求めるというものであり、本件抗告の理由は別紙のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば次の事実が認められる。

(一)  抗告人は消防士をしていた者であるが、昭和五四年一月以降、市中の金融業者から金員を借受け、同五七年二月頃までの間、競輪、競馬、パチンコ等に合計八〇〇万円ないし九〇〇万円くらいつぎこみ、その返済のために借金をする等借金を重ね、その総額は二八〇〇万円以上にもなり、その借入先も三十数社に及んでいること。

(二)  一方、抗告人は、昭和五六年七月には右のような借金による借金の返済もできなくなり、同月以降給料全額を弁護士の管理に委ね、前記負債の任意整理を行い、また同五九年五月には勤務先を退職し、その退職金をも前記債務の支払に充てており、現在の残債務は約一六〇〇万ないし一七〇〇万円となっていること。

(三)  しかしながら、右の昭和五六年七月以降、抗告人が借入れ等によって負債を作ったのは一三社前後、総計約四〇〇万円にのぼり、しかも昭和五八年四月の株式会社マルフクからの借金二〇万円などのように一度も返済していないものがあること。

(四)  また、抗告人は、破産宣告を受けた昭和五九年一〇月九日の前一年内である同五八年一一月一〇日(株)東武クレジットから、他社からの借入金はない旨申告してクレジットカードの発行を受け、即日これを使用して同社から一〇万円を借入れ(キャッシングサービス)、続いて買受物品を処分してその代金を生活費に充てるため、同月一五日(株)東武百貨店より右カードを使用して紳士靴(五万七〇〇〇円)、コート(四万円)外一点を代金十余万円で購入し、右の靴とコートはすぐに売却し、その割賦代金の支払は二回しかしなかったこと、抗告人は同五九年四月には第一家庭電器(株)所沢店よりテープレコーダーを二万七八〇〇円で購入し、その購入代金について頭金を除き埼玉ナショナルクレジット(株)のクレジットを利用したが、同会社に賦払金を一回も支払っていないこと。

(五)  抗告人は、前記破産宣告一年前から支払不能に陥り、その認識を有していたこと。

2  抗告人の右借金による競輪等の遊興、それによる多額の借金は破産法三六六条ノ九第一号(同法三七五条一号)に、破産宣告前一年内の借金、クレジットによる物品購入は同法三六六条ノ九第二号に該当するというべきところ、抗告人の返済の努力、抗告人主張のような本件免責申立を不許可にした場合の債権者及び抗告人に及ぼす実際的影響を斟酌しても、抗告人は負債整理のため弁護士に給料の管理を委ねる一方で、多数回にわたり相当多額の金員を借入れる等し、その際虚偽の申告をしたこともあるのであって、このことは右弁済の努力をいわばほとんど帳消しにするものと評価せざるを得ないし、抗告人の破産に至った原因、借金総額等を考慮すれば、抗告人は破産者として誠実に欠けるところが大きく、右法条の予定する裁量免責の限度を超えているものと解すべきである。

抗告人の免責制度に関する見解は採用できない。

二  以上のとおりであるから、免責を許可するのは相当でないというべきである。

他に原決定を取消すべき違法は認められない。

よって、原決定は正当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 加藤英継 笹村將文)

〈以下省略〉

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